脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症(SCD)とは
脊髄小脳変性症はひとつの病気ではありません。
小脳の神経の変性によって生じる疾患を総称したものです。
英語では「Spinocerebellar degeneration」、「SCD」と略されて呼ばれることもあります。
筋肉や骨は正常にも関わらず、歩行時のふらつき、手の震え、ろれつが回らないなど、自分の意思で体を動かせなくなる「運動失調」と呼ばれるさまざまな症状が現れます。
原因は遺伝性と非遺伝性に分類され、約7割が遺伝性ではない孤発性です。
生活習慣なども原因にはなりません。
日本全国では3万人以上の患者さんがいると推定されています。
症状は非常にゆっくり進みます。
下記の病気で診断されることが多く、運動失調症状以外にも様々な症状を伴います。
マシャド・ジョセフ病(MJD/SCA3)
日本において、親子間での遺伝性が認められる脊髄小脳変性症の中で最も多い病気です。
この病気は、1~4型に分類されます。
20代の若年で発症する1型では、足が突っ張る「痙性」、全身や身体の一部が捻れて硬直する「ジストニア」などの症状がみられます。
20~40代の成年で発症する2型では、1型の症状に加え、運動失調症状、眼が揺れ動く「眼振」などの症状が現れます。
40代以降の比較的高齢者に発症する3型では、筋肉の萎縮や末梢神経の障害もみられます。
さらに稀な4型では、パーキンソン病のような症状をきたすことがあります。
SCA6
日本において、親子間の遺伝性が認められる脊髄小脳変性症の中で、上述のマシャド・ジョセフ病(MJD/SCA3)の次に多い病気です。
高齢期に発症することが多く、症状はとてもゆっくりと進行します。
基本的には運動失調のみが現れます。
しかし一部では、めまい・足の突っ張りなどの症状も報告されています。
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
遺伝性が認められる脊髄小脳変性症です。
1970年代に日本で発見され、国内での患者さんも多いです。
発症は小児から高齢者まで幅広くみられます。
特に小児では運動失調症状のほか、身体の一部が無意識に動いてしまう(ミオクローヌス)、進行性の知能低下、てんかんなどを伴います。
成人以降では、運動失調症状のほかにも、無意識に身体の一部が急に動いてしまう不随意運動(舞踏アテトーゼ)、性格の変化を含む精神障害、認知機能の低下などが現れます。
脊髄小脳変性症の予後
症状は非常にゆっくりと進みます。
急に症状が悪くなることはありません。
進み方は、同じ病気でも患者さんによって差があります。
病気が進むと、呼吸や血圧の調節など自律神経機能の障害、 痺れを感じるような末梢神経障害などを伴う場合があります。
脊髄小脳変性症の症状
脊髄小脳変性症(SCD)に共通する症状は、「小脳性運動失調」です。
小脳性運動失調とは、筋肉をバランスよく動かすことが難しくなってしまう症状です。
例えば、歩くときにふらついてしまう、呂律が回りづらい、などの症状がみられます。
小脳性運動失調の他にも共通して出やすい症状として、排尿障害、自律神経障害があげられます。
また病気の期間が長くなるにつれて、嚥下障害を認める場合もあります。
体幹失調
体のバランスがとりにくくなります。
そのためふらふらと身体を揺らすなど、不安定に歩きます。
小脳性構音障害
発声に必要な筋肉を動かしにくくなります。
そのためうまく話せない、ろれつが回らない、言葉が出てこないなど、会話がしにくくなります。
他にもゆっくりとした話し方になったり、突然大きな声になる(爆発性言語)ケースもみられます。
協調運動障害
一つの動作を行うために筋肉を協調して動かしにくくなります。
そのためものを取ろうとしてもうまく掴めない、手芸や楽器演奏など指の細かい動作がしづらくなる、何かをまっすぐに指でなぞることができないなどの症状が現れます。
手足が不規則に震えてしまう「小脳性振戦」という症状もみられます。
脊髄小脳変性症の公的補助・介護保険
脊髄小脳変性症(SCD)は、医療費の補助を受けることができます。
また福祉・介護サービスも利用できます。
地方自治体の窓口や保健所に相談してください。
難病医療費助成制度
難病医療費助成制度とは、長期療養による医療費の経済的な負担を支援することで、患者さんの病状や治療状況を把握し、疾患の治療法確立のための研究を推進する制度です。
患者さんの年齢や世帯の所得によって医療費の上限額が決定され、助成を受けることができます。
医療機関・薬局で支払った自己負担の医療費が1ヶ月の上限額を超えた場合、超えた分の金額が支給されます。
介護保険
本来は65歳以上が対象となる制度ですが、脊髄小脳変性症(SCD)の患者さんは40歳以上であれば利用できます。
脊髄小脳変性症(SCD)は国が定める特定疾患のためです。
申請すると、要介護度・所得に応じて介護費用の一部が助成されます。
脊髄小脳変性症患者を介護する際の注意点
注意①転倒防止
体幹失調があらわれます。その結果、体のバランスがとりにくく、歩行が不安定になります。歩きやすいように手すりをつける、転倒しても大丈夫なように角がある家具などは保護する、足元に者を置かないなど万が一の転倒を予防しましょう。
注意②排尿・排泄のケア
排尿や排便についての障害が症状のひとつとして出ることもあります。
尿の回数が増える、失禁する、尿が出にくい、残尿などの排尿障害や、便秘になりがちになります。どちらの場合も医師に相談しながら薬剤治療を行いますが、場合によっては尿道カテーテルを入れたり、浣腸や摘便を検討する場合もあります。専門医の指導のもとケアを行うようにしましょう。
注意③誤嚥予防
症状のひとつとして、嚥下機能の低下・咀嚼障害が見受けられるようになります。
そのため、食事を行う際に飲み込みにくい、咀嚼しにくいといった場合は、細かく刻んだ状態にする、とろみをつけて飲み込みやすくするなど、食事も症状に合わせた形態のものを用意しましょう。
注意④コミュニケーション
脊髄小脳変性症の症状の中には、小脳性構音障害がありました。これらは発生に必要な筋肉が動かしにくくなるため、うまく話せなかったり、呂律が回らなかったり、言葉が出てこないなど、会話が難しくなります。症状が進行するにつれて、意志の疎通がなかなかうまくできないこともあるでしょう。その場合は文字盤やイラストを使用したコミュニケーションボードを使用したり、筆談ツールを使用したり、また最近では麻痺等で言葉が話せない方のコミュニケーションツールとしてアプリが開発されたりもしているので、患者の思っていることや、感じていることをしっかり汲み取れるように工夫しましょう。
脊髄小脳変性症患者は介護サービスが利用できるのか?
通常65歳以上の高齢者が利用できると思われがちな介護保険ですが、実は40歳以上の脊髄小脳変性症患者の場合は介護保険が利用できます。
介護保険制度では居住介護支援や、居住サービス、施設サービス、地域密着型サービスなどさまざまなサービスを利用できることがあります。
受けられるサービスについては、介護保険の加入状況や、病気の症状、利用する施設によって条件が異なります。まずは利用したいサービスに問い合わせしてみることをおすすめします。
自分らしく生活するために介護サービスも上手く活用しましょう
ゆっくりと症状が進行していくのが特徴でもある脊髄小脳変性症。最初は自分でできていたことも、徐々にできなくなってくることもあるでしょう。症状が進行するにつれて、家族のサポートが必要になってきます。最初は介護に要する時間や内容が少なかった場合でも、症状が進行するにつれて家族の負担も増えがちです。
患者本人はもちろんのこと、介護する家族が毎日の生活を無理なく、自分らしく過ごすために、ぜひ介護サービスの利用も視野に入れてくださいね。
介護のプロの力を少し借りるだけで、心や身体の負担も軽くなりますよ。