パーキンソン病
パーキンソン病は
どんな病気?
パーキンソン病とは、脳の異常が原因で、体の動きに障害があらわれる病気です。
手足が震えたり、体がこわばって動かしにくくなったりするのが主な症状です。
50歳以上の高齢者の方に発症することが多いです。
40歳以下の若い人でも発症することがあり、「若年性パーキンソン病」と呼ばれます。
パーキンソン病は国内に15万人、高齢者に多く発症
パーキンソン病の患者さんは、人口10万人あたり100人~150人(1000人に1人~1.5人)くらいです。
日本国内では、15万人以上の患者さんがいます。
60歳以上では人口100人あたり約1人(10万人に1000人)の割合となり、高齢になるほど患者さんの数が多くなる傾向があります。
そのため人口の高齢化に伴い、患者さんは増加しています。
有名人では、ボクシング元世界チャンピオンのモハメド・アリさん、芸術家の岡本太郎さんなどが知られています。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで知られているハリウッドスターのマイケル・J・フォックスさんも、若年性パーキンソン病と診断されて30年以上闘病しています。
マイケル・J・フォックスパーキンソン病研究財団(The Michael J. Fox Foundation for Parkinson’s Research)を設立して治療法発見のために10億ドルの基金を集めるなど、現在も精力的に活動されています。
難病医療費助成、介護保険など公的支援制度の対象です
パーキンソン病は 厚生労働省の定める指定難病の一つです。
国や都道府県から医療費の補助を受けることができます。
重症度によって受けられる支援は異なります。
主治医への相談や、各自治体の担当窓口、最寄りの保健所などに問い合わせてみてください。
難病医療費助成制度
難病医療費助成制度は、長期療養による医療費の経済的な負担を支援しながら、医療費助成を通じて患者さんの病状や治療状況を把握し、疾患の治療法確立のための研究を推進する制度です。
パーキンソン病で対象となるのは、以下に該当する患者さんです。
・パーキンソン病の治療で他の公費による医療給付を受けていない
・各医療保険に加入しており、医療費の自己負担がある
・ホーン&ヤール重症度3度以上で、生活機能障害度2度以上
介護保険制度
高齢者の介護を社会全体で支える事を目的とした制度です。
40歳以上の介護保険加入者が何らかの支援や介護が必要と認定された場合、通常より少ない負担金額で介護サービスを受けられます。
パーキンソン病で対象となるのは、以下に該当する患者さんです。
・40〜65歳未満の患者さん:第2号被保険者・各医療保険に加入している方
・65歳以上の患者さん(第1号被保険者)
特にホーン&ヤール重症度1、2度で難病に認定されなかった、40〜65歳未満のパーキンソン病患者さんの場合、介護保険制度によるサービスを有効に活用できる場合があります。
身体障害者福祉法
パーキンソン病の症状が進み、身体を思うように動かすのが難しくなってきた場合は、身体障害者手帳の交付を受けることによってさまざまな支援を受けることができます。
身体障害者手帳の交付対象となる障害のうち、パーキンソン病の患者さんは「肢体不自由」に該当します。
その他、地域による支援
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)により、地域による支援を受けることができます。
自立支援給付として、介護給付、訓練等給付、補装具、自立支援医療などがあります。
パーキンソン病が
起こる原因
パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドパミン神経細胞がこわれて、作られるドパミンが減ることで起こります。
ドパミンは、脳において運動の仕組みを調節する働きがあります。
そのためドパミンが減少すると体が動きにくくなったり、ふるえが起こりやすくなったりするのです。
ドパミンは年齢とともに自然に減っていくものです。
しかしパーキンソン病の患者さんの場合は、健康な人と比べてより速いペースで減っていきます。
ドパミンが減少してしまう理由は現在わかっていません。
しかし最近の研究では、ドパミンの減少はαシヌクレインというタンパク質が原因と考えられています。
このαシヌクレインを増やさないようにすることが、治療薬の開発につながるのではないかと日々研究が進められています。
まれに家族性に発症するケースが見られ、その遺伝子が特定される場合もあります。
しかしほとんどの患者さんには遺伝性が見られません(孤発性)。
パーキンソン病の4大症状
パーキンソン病には、代表的な4つの運動症状が見られます。
①振戦:手足が震える
②筋固縮・筋強剛:筋肉がこわばる
③動作緩慢・無動:動きが鈍い、動作が少ない、小さい
④姿勢反射障害:身体のバランスがとりにくい、とれない
特に①〜③は三大症状と呼ばれることもあり、パーキンソン病の診断の際に注視される運動症状です。
①振戦:手足が震える
何もせずにじっとしている時、安静時に手足が小刻みに震えます。
何かしようと動くときには、震えが止まることもあります。
発症初期は、片方の手や足のふるえから始まることが多いです。
パーキンソン病の代表的な症状です。
②筋固縮・筋強剛:筋肉がこわばる
指・肩・膝など関節の筋肉がかたくなり、身体をスムーズに動かしにくくなります。
患者さんによっては、痛みを感じることもあります。
顔の筋肉がこわばり、無表情に感じられる症状も見られることがあります。
③動作緩慢・無動:動きが鈍い、動作が少ない、小さい
動き出すのに時間がかかり、動作そのものも素早くできなくなります。
例えば歩くときに足が出にくくなる(すくみ足)、
目のまばたきが減って顔の表情が硬くなる、話し方に抑揚がなくなって声が小さくなるなどの症状が見られます。
書く文字が小さくなる患者さんもいらっしゃいます。
④姿勢反射障害:身体のバランスがとりにくい、とれない
体のバランスがとりにくくなり、転びやすくなります。
これは進行すると出てくる症状です。
転倒・骨折などの原因になるため、注意が必要になります。
例えば立っているときに軽く押されると、バランスを崩して転んでしまいます。
他にも歩いていて止まれない、方向転換が難しいなどの症状が見られる場合もあります。
さらに症状が進むと、首が下がったり、体が斜めに傾くケースもあります。
この状態になると、難病の治療費が補助されるケースが多いです(ホーン&ヤール重症度3度)。
パーキンソン病のその他の症状
上記の4大症状以外にも、様々な症状があらわれる患者さんもいます。
4大症状全てが必ずあらわれるわけでもありません。
主治医に相談しましょう。
パーキンソン病で見られるそのほかの症状の一例
歩行障害(すり足、すくみ足、歩いているうちに加速してしまうなど)
姿勢障害(過度に身体が曲がる、傾くなど)
無表情(瞬きが減る、表情がなくなる)
嚥下障害(食べ物が飲み込みづらくなる)
自律神経の異常(起立性低血圧、便秘、排尿障害など)
精神・認知に関わる症状(うつ状態、不眠、幻覚・妄想、認知症など)
痛み、しびれ、関節痛、筋肉痛など
パーキンソン病の治療方法
残念ながら、パーキンソン病を完全に治す治療法はまだありません。
しかし早期から薬の服用を続けることで症状が改善され、今までと同様の生活を送ることも可能です。
パーキンソン病治療で使われる薬剤と副作用
パーキンソン病で使われる薬剤の一例と、その副作用です。
主治医とよく相談し、必ず用法・用量を守って服用してください。
L-dopa(レボドパ)
少なくなったドパミンを補います。
ドパミンはそのまま服用しても脳に届かないため、腸から吸収されたあと脳内へ移行し、ドパミン神経細胞に取り込まれてドパミンとなる成分「L-dopa(レボドパ)」を服用します。
この治療薬が開発されるまでは発症後5年で寝たきりでしたが、現在では薬を服用することで10年経っても歩ける患者さんもいます。
問題は長く服用すると作用時間が短くなることです。
そのため日本では体内の酵素で分解されてしまうのを防ぐ阻害薬と併用して内服するケースが多いです。
ドパミンアゴニスト
ドパミン受容体刺激薬(アゴニスト)は長期服用しても、L-dopa(レボドパ)よりも作用時間が長いのが特徴です。
日本では現在8種類のドパミンアゴニストが使用できます。
しかしL-dopa(レボドパ)より効くのに時間がかかるというデメリットもあります。
また吐き気や 幻覚 ・ 妄想 などの副作用にも注意が必要です。
長期服用の影響を受けやすい若年性パーキンソン病の場合は、このドパミンアゴニストで治療を開始する場合があります。
一方高齢の方は、最初からレボドパで治療開始するケースがあります。
高齢者は長期服用の影響を受けにくいとされているので、より効果が確実なL-dopa(レボドパ)が選ばれます。
ゾニサミド
てんかんの治療薬として使われていましたが、2009年にパーキンソン病に使うことが認められた薬剤です。
なぜパーキンソン病の症状を改善するのか、その理由は完全には解明されていません。
L-dopa(レボドパ)と併用で使われることが多く、効果が短くなってしまった場合や振戦の症状が残る時に有効とされています。
作用時間も長いです。
パーキンソン病の手術療法
手術療法で最もよく行われるのは、脳内に電極を入れて視床下核を刺激する方法です。
視床下核は運動を抑制していると考えられています。
ここを刺激して視床下核の機能を麻痺させることで、運動の抑制がとれて体が動きやすくなります。
薬で治療しても振戦の強い患者さんや、薬の効果が持続しない患者さんに効果が期待されています。
運動・リハビリ
体を動かすことはパーキンソン病の治療になります。
激しい運動をする必要はありません。
毎日散歩やストレッチなど続けて、体力を高めることが重要です。
また、明るい気持ちを保つことも重要です。
人が何かに対して意欲的に行動する時は、脳内でドパミン神経が働いていると考えられています。
日常生活の過ごし方も大事な治療のひとつです。
パーキンソン病の
経過・寿命
これまでの研究によって治療薬が開発されたことにより、現在のパーキンソン病の平均寿命は、一般的な平均寿命とほとんど変わらないと考えられています。
高齢の患者さんの場合は、転倒による骨折、他の病気などで動けなくなると症状が悪化することもあります。
怪我や病気をしないように、運動・睡眠・食事などに気をつけて健康的な生活を送ることが重要です。
パーキンソン病の介護に
あたって3つの注意点
衣類の着脱について
パーキンソン病はステージの進行と共に、身体が自由に動かせなくなっていきます。そのため、衣服の着脱にも介護が必要となります。最低限の力で衣服の着脱ができるように、衣服は伸縮性のあるものを選んだり、ボタンやジッパーなどではなくマジックテープのものなどがおすすめです。
腕を通しやすいように前開きの服を選んだり、ズボンのウエストはきっちりしたものではなくゴムのものなどが着脱しやすいです。
食事について
特に注意したいのが、食事です。パーキンソン病が進行すると嚥下(えんげ)障害のため、むせやすくなったり、上手に飲み込めなくなることがあります。食事をしやすいように、食材を細かくカットして食べやすくしたり、料理にとろみをつけて飲み込みやすくする工夫を行いましょう。
住環境について
住環境については、床を滑りにくくしたり段差を極力無くす、またトイレや浴槽に手すりをつけることで転倒を防ぎましょう。運動機能が低下していくと特に転びやすくなるので、安全に生活できる環境を整えることが大切です。必要な設備はステージによっても異なりますので、将来も見据えて今必要な対策を行っていきましょう。
パーキンソン病患者は介護施設に入ることはできる?
「介護施設は、60〜65歳以上でないと入れないのではないか?」と考えている方もいるのではないでしょうか。結論から言うと、パーキンソン病は厚生労働省が指定する特定疾患なので、以下の要件を満たしていれば介護施設への入所も可能な場合があります。
特定疾患を患っている40歳から65歳未満までの方
要介護状態であること
施設によって条件等が詳しく異なる場合もあるので入居を希望する施設に問い合わせてみることをおすすめします。
パーキンソン病患者が介護施設に入所するメリット
家族の負担が軽減される
介護施設に入ることで、ご家族の精神的な負担が軽減されるでしょう。介護施設の場合は、その道のプロがケアを担当するので、自宅よりも安心できるという方も多いです。
専門のスタッフによる適切なケアが24時間受けられる
介護施設には、介護スタッフの他にも常駐する看護師がいるので専門知識があるスタッフに対応してもらえるのは安心ですよね。容体が急変した際などでも、医療機関と連携している介護施設であれば対応も迅速に行えるのもメリットの1つです。
家族以外の人との関わりが増える
介護施設ではレクリエーションや食事の時間など、他の入居者やスタッフと関わる機会があるので自宅よりも多数の方と関わりを持つことで良い刺激を得られる可能性もあります。パーキンソン病を受け入れている介護施設などでは、同じ病気の人と交流できたりなど良き理解者を得られるかもしれません。
【まとめ】ステージや状況に応じて介護施設の利用も視野に
パーキンソン病は、ステージが進行していくと運動機能の低下により日常生活のあらゆることが困難になっていきます。ステージが軽い段階では、ご家族が仕事を続けながら介護やケアを行っている場合でも、ステージの進行と共に介護に充てなければならない時間も増え、負担も重くなることが想定されます。
中には、限界ギリギリの状態でケアを行なっているご家族様もいらっしゃるのが現実です。精神的にも体力的にもいっぱいいっぱいになる前に、ぜひ介護施設を上手に活用していただきたいと思っています。まずは、パーキンソン病を受け入れている介護施設などにお気軽に相談してみてください。この記事が、パーキンソン病と向き合っておられる方々のお役に立てれば幸いです。
当施設の医療体制